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    雑記ブログ

    Category: ●空に捧ぐ

    【空に捧ぐ】-無知の章- 第1話 力は与えられず

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     湖面に涼やかな風が吹き渡り周囲の緑を揺らしていた。 この大好きな景色の中で、僕はあなたのことを胸に描いて深く目をとじた。 ゆっくりと目を開け顔を上げると、そこには雲一つない空があった。 朝焼けが消えたばかりの美しい水色をしていた。 そこは街から車で30分ほどの馴染みの場所だった。家族ともよく遊びに来る。今日は友人と釣りをしにやってきた。日曜は忙しいけれど以前から誘われていただけに断り切れなかった。...

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    【空に捧ぐ】-無知の章- 第2話 ふりかかる難題

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     携帯電話が震える、その微かな音がどこかで響いている。 確かテーブルの上に置いていたはず。 僕はまだ半分目を閉じたまま、這って部屋の中央にある低いテーブルに向かった。狭い部屋でよかった。ぎりぎり電話に手が届いた。操作する指を震わせながら、なんとか携帯電話を耳に当てた。『柏原(かしはら)くんか?』 男の声がした。「……はい」『大丈夫か? 苦しそうだな』「あぁ……すみません……」 それ以上は言えずに思わずま...

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    【空に捧ぐ】-無知の章- 第3話 閉ざす人

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     昼休みになり、広いフロアにはほとんど人がいなくなっていた。僕と課長は営業1課のデスクが集まっている場所で眞崎芹亜を待っていた。 12時を10分ほど過ぎた頃「すみません!」と言いながらフロアに駆け込んでくる女の子がいた。グレーのパンツスーツですまなそうに身を屈めて走って来るその姿に、“美人”というイメージとのギャップを感じた。 営業部にはあまりいない癒し系の優しい顔立ち。なので美人にありがちな、ツンとス...

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    【空に捧ぐ】-無知の章- 第4話 不思議な関係

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     眞崎芹亜に指導しながら得意先を回る毎日を送っていた。 気が付けば10月。彼女と出逢ってから、あっという間に1か月が経っていた。 ふとした瞬間に思い出す。蕎麦を食べていた時、理由の分からない強い視線で彼女に見つめられたことを。あれは何だったんだろう。その後、彼女の態度は以前と変わらぬものになったので、なんとなく訊くタイミングを失くしてしまった。 セリは相変わらず誰にでも愛想がいい。社内の男子は皆、彼...

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    【空に捧ぐ】-無知の章- 第5話 知らないことの罪

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     自分の誕生日に好みの女性から食事に誘われて、嬉しくない男などいない。 その相手が、社内で誰もが狙っている眞崎芹亜なら、もう大声で自慢していいレベルだ。 勿論、僕だって馬鹿ではないので、あんなにガードの固い彼女の言葉をすぐに鵜呑みにしたわけではない。実は頼みごとがあって、うまく融通してもらうための根回しの一環ではないかとか、彼氏との恋愛相談だとか、いろんな可能性を探った。 広樹に嫉妬されても自信な...

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    【空に捧ぐ】-祈りの章- 第1話 夢の終わり

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     食事を終え店を出た。街の灯りで、星は見えない。 輝きは、隠されている。 肩を並べ、黙ったまま歩く。「陸斗さん」 セリが先に口を開いた。「今日、いっぱいもらってましたね、誕生日プレゼント」「……あ? あ、いや……」 見られてたのか。僕は決まりが悪くて彼女の方を向けなかった。「隠さなくていいじゃないですか。好かれてるっていいことですよ」「……いいことか」 嫉妬なんて期待するのは間違ってるんだな。 そう思っ...

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    【空に捧ぐ】-祈りの章- 第2話 赤い服の少女

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     翌日から、僕はセリに集る男の先輩たちを、仕事の邪魔だと払いのけた。 そして嫌がらせをした女子社員に関しても、全員呼び出して強く言った。「セリはオレの補助だ。オレにとっては、たかが後輩、たかが補助。それでもセリの仕事の邪魔をするなら、君たちが今日からオレの補助をしてくれ」 怒りを露わにした僕の態度で、彼女たちはやっと理解してくれたらしい。それ以降の嫌がらせは無くなった。 しかし後日、セリを苦しめて...

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    【空に捧ぐ】-祈りの章- 第3話 守れないまま

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     セリが倒れた翌日、それは悲しいくらいに晴れ渡った日だった。 10月半ば。駅から職場への道を歩いていると、どこからか金木犀の甘く強い香りが漂ってきた。 僕は、彼女のいない職場で、魂が抜けたように呆然と椅子に座っていた。PCは開いていたが、僕の目にその文字は映っていなかった。 そんな僕を広樹がじっと苦い顔で見つめているのは、なんとなく気付いた。「セリが心配なら、おまえも休めば良かったのに」「そういうわけ...

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