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    雑記ブログ

    Category: ●短編

    【ストーブ】 前編

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     冬の間、教室ではガスストーブの燃焼する低い音がBGMになっていた。 田舎の古い公立高校なので空調などない。暖房器具と言えば、生徒が頻繁に出入りする広い教室に、ストーブが一台きり。しかも音は大きいが、その性能では生徒全員を暖めることはできない代物。 静かな授業中に、ガスストーブの孤独なうなり声が響き続ける。 佐久間孝祐(サクマ・コウスケ)の隣の席に座る北尾有弓(キタオ・アユミ)は、試験が近いとあって...

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    【ストーブ】 後編

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     北尾は、中学時代の佐久間のことを、まっすぐ空に飛んでいき消えてしまう野球のホームランのボールのようだと言った。「サクは周りなんか気にせず独りで直進してた。スゴいなって思ったけど、それについてくことはできなかった。だって私なんて誰が見ても、いろんなとこにぶつかって、曲がってヘコんで最後には誰かに踏まれるそんなテニスボールみたいなヤツだったし」 佐久間は、北尾の無駄な動きを思い出すと同時に、部室に転...

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    【残念なキューピッド】 前編

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     今日の分の仕事を終えたので、活動報告書という日誌のようなものを書いていた。 課長はもう退社してしまったからこれを提出してさっさと帰ろう。もう6時じゃねーか。ビール飲みてえ。隣で何か呟いている男は放置だ。「なあ、大野ぉ」 隣の男はオレの肩をつつく。「黙れ、大野サンだろーが。後輩のくせに」「あれ、僕、同級生の広野くんなんですけど。忘れたのかな?」「いない。記憶の中にそんなヤツはいない。いたとしても、...

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    【残念なキューピッド】 後編

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     ベンチに座る凛の前に立ったが、俯く彼女に言葉をかけられなかった。仕方なく彼女の隣に腰を下ろした。 凛は驚いてこっちを見ていた。オレは前を向いたまま横目で彼女を見ていた。 赤らんだ顔と少しうるんだ目。微かに動く、もの言いたげな唇。 ん、近くで見ると、新垣結衣に似てるとか関係なく、普通に可愛いような気がしてきた。 ていうか、なんでそんなにオレのことじっと見てんだよ。なんかそっち向けないだろーが。「大...

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    シリーズ:不自由な生活 (1) 【それは今だよ】

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     未来(みらい)という名は好きじゃない。 キラキラネームというほどではないし、ありふれているような気もする。でも好きではない。というか、好きじゃなくなった。 高校時代の同級生の能瀬(のせ)が、つい最近言った言葉のせいだ。「メッセージソングとか応援ソングとか、まあラブソングも含めて、全部ウザい」 能瀬は私のとなりで呟いた。 そんな彼の片方の耳には、イヤホンが押し込まれている。 もう片方の耳はイヤホン...

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    【つながる】 第1話

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     コマチなんて呼ばれている美貌の持ち主であるオレは、名を小野貴之という。 近所に住んでいる高瀬幸は、オレの3歳年上のいとこで、実質姉のような存在。ウザいのなんのって、週末になるとDVDを持参してオレの家で鑑賞して帰る。 たぁちゃん、こうちゃんなんて呼び合っていた子どもの頃ならいざ知らず、オレが大学生になった今でも、こんなに姉貴ぶりたいのか。というか、いい加減うちに来て映画を観て、勝手に泣いてティッシ...

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    【つながる】 第2話

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     数日後、大学から帰る途中で高校の後輩の女子に声をかけられた。「小野さん、最近彼女と一緒じゃないんですね」「彼女?」 その子はオレの問いかけに不思議そうな顔をした。「彼女でしょう? いつもずっと一緒にいたし。ベリーショートのきれいな人……」 オレはその子から一歩、後退った。 ベリーショートのきれいな人って。どう考えたって、幸のことしか浮かばない。 いつも一緒にいた? いや、オレは家の外ではあいつには...

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    【つながる】 第3話

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     光に溶けそうな彼女は「ずっと一緒にいられると思っていたのに」と言った。「いつかきっと二人で幸せになれると信じてたのに……もう、逢えないなんて……嫌よ」 オレは首を横に振る。彼女の手を握ったまま、一緒にいたい、オレの傍にいてと請うた。 そのとき、「どうするんだ」という老人の声がした。それは、亡くなった祖父の声だ。 彼女はその声に悲しそうに目を閉じた。思わず、オレは手に力を込めた。「行くなよ」と叫んでい...

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